書き留めたいことを書き留めたいように

起業支援ネット×よのなか×わたし

NPO法人の2代目代表を10年やってみて思うこと(その2)

その2です。

※その1はこちら

huurinntei.hatenablog.com

そういえば、何か月か前にどこかから(←大変に曖昧な記憶…、内閣府だったかなぁ)、NPOの事業承継に関するアンケートがありまして。

調査票に記入したのち、控えをとらずに返送してしまったので、詳細が確認できないのが悔やまれるんですが、「後継者にはどのような力が必要だと思いますか」的な質問の回答の選択肢が「マネジメント力」とか「資金調達力」とかそういうビジネススキルとか経営力的なものに偏っていて、大変に違和感を覚えたわけです。わたしは「その他」にぐるぐる二重丸をつけました。

 

だって、考えてもみてほしい。NPOの創業者のみなさんは、経営力があったから創業したわけではないですよね。なんだかわからないけれど、社会の中で必要だと思うこと、大事だと思うこと、いろんな人と分かち合わなければならないと思ったことがあって、それをどうにかこうにか形にするために、たくさん失敗したり、周りに迷惑をかけたりもしながら「経営力を身に着けてきた」のですよね。

 

そう思うと、2代目には「失敗を重ねたり、悩んだりしながら、それでもこれでいこうと決断し、経験し、振り返って咀嚼しながら自分の軸にしていくための時間」が圧倒的に不足しているのではないかと思います。だって、目の前にはスタッフがいて、日々の業務がある。組織に対する社会的な期待もある。

でも、本当はその中でも、「自分で決断したことが自分に返ってくる」経験を小さく小さく積み重ねることで、自分の言葉で組織と社会の未来を語ることができるようになったり、自分の判断に自信が持てるようになっていくと思うのです。マネジメント力とか、数字を読む力とか、お金を取ってくるとかは、その次の話(最低でも同時並行で、逆の流れでは絶対にない)でしょ、と。

(ですので、ビジネススキルをお持ちのコンサルの方々がNPOの2代目代表の経営力を鍛えてくださるような事業に予算が流れたりしませんようにと切に願っております…)

 

で、2代目自身、引き裂かれるんですよね。今までと同じように組織を運営しなければならないという気持ちと、創業者の真似ではない自分なりのやり方を生み出していかなければならないという気持ちに。

わたし自身、2代目になることを迷っていたときも、実際に代表交代した後も、ほとんどすべての周りの方が「関戸さんの真似をするんじゃなくて久野さんなりのやり方でやればいいんだよ」って言ってくださっていました。これは「自分なりのやり方」が全然わからなかったときには、それはそれでプレッシャーでもありましたが、とてもとてもありがたい言葉でした。

でも、誰よりもわたし自身が「創業者が創り上げてきた組織をわたしの代でダメになったと言われたくない」と勝手に重荷を背負いこんでいたし、実際社会的なふるまいとしては、創業者と同じようなことを期待されて、うまくできず、相手をがっかりさせてしまったこともありました(例えばいろんな委員とかもちょっと引き継いだりしたんですが、ぜんっぜん上手くできんかった…)。

 

そんな2代目を見ていると、創業者の方もあれこれ助けたり、口を出したりしたくなるのではないかと思います。自分だったらこうするのに、と歯がゆさを感じたり、事業継承をするという判断が正しかったのかと後悔したりすることもあるかもしれません。

 

でも!

一旦組織の代表を次の方に譲ったのだったら、創業者の方には、もういろいろ諦めて(笑)いただきたいのです。

逆に言えば、この人に託して組織がどうにかなってしまうならば、それはそれで構わない、それで組織を畳むことになるなら本望だ、と思える人が出てくるまでは、事業継承しないでほしいとさえ思います。それは、そもそもなぜ事業承継をするのか、という問いにもつながります。

 

「せっかく積み重ねてきたものを次につないでいきたい」というのは、自然な気持ちだと思います。いろんなノウハウやネットワーク、ここで途絶えたらもったいないよね、という話もよく聞きます。

でもなぁ。ノウハウもネットワークも、実は意外と引き継げないんですよね(身も蓋もない発言)(あ、それに比べると事業モデルは継承されやすいと思います)。

 

例えば、ネットワーク。起業支援ネットも、代表交代した後に、会員さんが激減しました(泣)。なんかもう、退会のお知らせが届くたびに、凹みました。でも、今思うとそれはそれでよかった。そういうことがあったから、次の新しいつながりを自ら生み出していかなければならないと思ったし、そうやって自分なりに再構築していったネットワークの方が、やっぱりいざというときに頼りになるのです。

あ、そういう意味では、創業者の方は2代目に引き継ぐときに、理事会や評議員会の整理整頓はお忘れなく。あまりにも立派で重いネットワークは、新しいことを始めるときの足枷にもなり得るのです。できれば、創業者の方には、しばらくの間「善意の外野」から2代目を守る役割を果たしていただけたらと思ったりします。

 

ノウハウも…、どうかなぁ。例えば「起業の学校」の核になるプログラムなどは引き継いでいるけれど、これはもともと創業者のノウハウではなかったもの。

創業者のノウハウと言えば、「なんだかよくわからないけれど相談者さんが元気になって帰っていく」とか「講演会で多くの人を励まし勇気づける」とか「みんなが妄想ということがなぜか映像としてみえてしまう」とか。…引き継げるか、こんなもん!!(笑)

 

そう思うと、わたしは創業者が「やってきたこと」の多くを受け取らず、ある意味10年前に「置いてきた」。でも、そのことで創業者に責められたことは一度もありません(時々、”あー、それ、やるんだー、わたしだったら絶対やらんわー”とか”あー、これはやらないんだー、もったいなーい”とかぽそっと呟かれたことはありますが、意思決定への介入は一度もなかった。呟きは思い切って無視しておりましたw)。それは本当にありがたかったし、そうした創業者の態度が2代目としての自覚と自由をセットで連れてきてくれたようにも思います。

 

ただ、いろんなことを「置いてきた」以上は、新しいことを生み出さなければならない。その点では、副代表の力がとても大きく、起業支援ネットの事業の在り方も、講座や講演、公金を原資とした起業支援事業から、現場のNPOにコミットしながら事業を共同運営するような形にシフトしていきました。これは、わたしや次世代メンバーの個性やキャラクター、そして「頑張っても辛くないこと」を重視した選択でした。

(※このあたりは3月初旬に発行される会報誌に詳しいです。お楽しみに!!)

 

いろいろなところで「後継者が育たない」という声を聞きます。そりゃ、それまでやってきたことを、それまでやってきたように継いでくれる人は、いないよなぁと思います。それまでやってきたことを、それまでやってきたように続けていくなら、それまでやってきた人が最後まで、倒れるまで、頑張るのが一番です。それを求めるなら、もう創業者がどこまでも頑張るしかない、と思います。

「それまでやってきたことを、それまでやってきたように続けたい」っていうのは、本当は創業者の「欲」に他ならないのではないでしょうか。別に「欲」があるのは人間として自然だし、全然悪いことではないけれど、その「欲」を社会的な正しさの文脈で語るのは間違っている。大事なことなので、もう一度言います。個人としての「欲」を「社会的な正しさ」のふりをして人に押し付けるのは間違っている。欲なら欲って言ってくれればいいんです。そしたら受け取る側が判断するから。

「この組織がなくなったら困る人たちがたくさんいるのに、引き継がないとは何事か」というような言葉は、マジで止めていただきたいし、それを言われた側は「そんなこと知らねーよ」って言っていいと思います。(でも言えないからみんな苦しむ…)

 

わたしは創業者が「やってきたこと」は引き継がなかった。でも、「願ってきたこと」は引き継いだ、と勝手に思っています。それは、ノウハウとかネットワークとか、ひとつひとつの事業とかではないんです。魂とか哲学みたいなもの。起業支援ネット的な言い方をすれば「理念」。誰かと向き合うときの基本的なまなざしや姿勢。

すでに草葉の陰にいる創業者には確認のしようがありませんが、創業者が一番引き継ぎたかったのはそういうことで、「あとは好きにして」だったと思うのです。

 そして、それはわたし一人が引き継いだのではなくて、副代表をはじめとする理事会のメンバー、スタッフ、起業の学校の卒業生や協力してくださっているみなさん、そんなたくさんの方々が、ちょっとずつその魂を引き取ってくださっているというか、預かってくださっているというか。本当にありがたいことだと思います。

 

まぁいろいろまとまりませんが、2代目が育つために必要なことは、

・2代目がちゃんと失敗したり寄り道したりできる時間と環境

・2代目の個性、強み、能力などに合わせて、新たな事業を切り開いていく力

ではないか、というのが、現時点でのわたしの仮説です。

 

あ!起業の学校では、2代目の方や新たにリーダーになる方が、自分の理念やコンセプトを見つけていただくのにもご活用いただけますよ!!(←ステマ??)

npo-kigyo.net

 

まだまだ書けていないこともありそうな気がしますが、一旦おしまいにします。こんな話もまたいろいろと率直に議論できるようになっていくといいなぁと思います。

おつきあいいただき、ありがとうございました!