書き留めたいことを書き留めたいように

起業支援ネット×よのなか×わたし

「NPOと編集」についての文章を掲載いただきました

今年の9月に、

みえ市民活動ボランティアセンターで「NPOのための情報編集講座」を担当させていただいたご縁で、季刊誌「READER」に下記の原稿を掲載いただきました!お世話になったみなさま、ありがとうございます。

許可をいただきましたので、こちらに転載させていただきます。(写真もみえ市民活動ボランティアセンターのフェイスブックページからお借りしております。何から何まですみません!!)

f:id:kunominako:20181222150111j:plain

-----

NPOと編集 ~NPOにも編集が必要~

「編集」という言葉を聞いて、何を想像しますか?新聞や雑誌、映像の編集を思い浮かべられた方も多いでしょう。NPOの世界では、会報誌の制作や、チラシやホームページを使った情報発信の中で「編集」を意識する方もいらっしゃると思います。

実は「編集」とは、もっともっと幅広い概念なのです。普段の会話にも、料理や子育てや恋愛にも、ITのようなシステムにも、そして教育やビジネスにも「編集」があります。例えば、昨日見た映画の印象、一日のスケジュール、会社のプレゼン、海外旅行のプラン、国の法律、これらはすべて「編集」されているものです。
ただ、私たちは、日常では「編集」を意識することなく暮らしています。この無意識を意識化し、情報を動かしながら、新しいものの見方や方法を獲得していくことを「編集術」と呼びます。

 …あれ、よく考えてみたら、NPOの活動って「編集」そのものではないでしょうか。

 

わたしたちNPOの活動は、社会の中のちょっとした違和感から始まります。世の中で「当たり前だ」「仕方がない」と思われているもの、「誰かが我慢すべきだ」「自己責任でしょ」と言われてきたもの。そうした言葉をそのまま受け入れることなく、「一部の人の問題」「個人の責任」は実は「社会の課題」なのではないかという問い直しをするのがNPOという存在であるはずです。

同時に「社会の課題」の解消・解決を図るという営みは、決して一人でできることではありません。人や組織をはじめとする様々な社会資源をつなぎ、役割分担をしながら、社会に新たな機能を生み出すこともNPOの大きな社会的な役割です。
そう思うと「NPOとは、一人ひとりの問題意識と目指す未来(理念)を軸にして、社会を再編集する存在である」と言い換えることもできそうです。

 

NPOの日々の業務にも「編集」はいたるところに潜んでいます。

例えば、助成金の申請をするとき、プレゼンテーションをするとき、会員をはじめとする仲間を集めたいと思うとき、わたしたちは日々の活動を言語化しなければなりません。

ただ、わたしたちが日ごろ現場で見るもの・聞くもの、感じていることのすべてをそのまま誰かに伝えることは不可能です。わたしたちが持っている無数の情報の中から、伝える相手に応じて、情報を選び出し、わかりやすいキーワードに置き換え、並べ替えて、なんとかその実態や実情を伝えようとします。

ただ、「想いはわかるけれど具体性がない」と言われたり、一方で、「細かな取り組みはわかるけど全体像が見えない」と言われたり。そんな体験を重ねる中で情報発信に苦手意識を持ってしまう方もいるようです。

 

また、設立当初は気心の知れたメンバーと活動を行っており、わざわざ理念やコンセプトを言葉にしなくてもよかったというNPOもあるでしょう。でもそんな団体も、新たなスタッフや協力者が増える中で、想いを言葉にして分かち合うことや、新たな言葉を生み出していくことが求められます。

社会の中の「当たり前」に違和感を感じて立ち上がったはずのNPOが、組織内の「当たり前」を変えられずに苦労する、ということも決して珍しいことではありません。しかも、誰も「悪くない」のです。

そんなときは「編集」を意識してみるとよいでしょう。
例えば、編集術をインターネット上で学ぶことのできるイシス編集学校では、「コップ」の呼び方や使い方を思いつく限り挙げていく、というトレーニングがあります。

わたしたちが普段、NPOの活動や事業の中で当たり前のように使っている言葉を何通りに言い換えることができるでしょうか。

「いきいきと」「生きる力」「安心できる場所」「つながり」「自律的」などなど、NPOの理念やコンセプトには、どうしても抽象度の高い言葉が使われることが多いのです(そうでなければ表現できないことも多いのです)。

ただ、こうした言葉がただの「コトバ」になってしまわないよう、血の通った、体温のあるものになるためには、その言葉からどれほど豊かなイメージが想起さられるかがカギとなります。

あなたのNPOにとって「つながり」とは一体どのようなものを指すのか。一度100通りに言い換えることにチャレンジしてみると、きっと新たな発見があることと思います。もしかしたら、あなたの考えている「つながり」と、別の人が考えている「つながり」は違うかもしれない。でもその違いがあるからこそ、そしてその違いを知ることからこそ、新たな、そして豊かな「つながり」を見出していくことができる。

編集術はその相互コミュニケーションの方法であり、NPOの活動が生む価値を裏付ける実践的な技術です。

NPOとは、もともと<弱さ>から出発するものであったはずです。“常識”にかき消されてしまいそうな小さな声に耳を傾け、それをそのままにしてはおけないと思い、その小さなか細い声の中にこそ未来へのヒントがあると直感した“普通”の人たちが立ち上がったことが、多くのNPOの原点ではないでしょうか。


イシス編集学校の校長である松岡正剛氏は「弱さによって相互作用が生まれる」「弱さこそが真に過激なのである」(※)と言います。NPOでは、よく経営基盤や組織基盤の脆弱さが指摘されますが、その<弱さ>があるからこそ、多くの人々の力を借り、小さなできることを持ち寄り、それが地域や社会で新たなネットワークを形成し、誰かの居場所や役割を創ってきたという歴史があります。それは小さくとも、過激で鮮烈な出来事だったのではないでしょうか。そこから新たな経営基盤や組織基盤のあり方を生み出すのがNPOだと思うのです。

表層的な強さを求めることなく、<弱さ>からはじまる相互編集を目指して。NPOにこそ編集力が必要なのです。
 
※「フラジャイル 弱さからの出発」松岡正剛 (ちくま学芸文庫)

<参考図書>

ボランタリー経済の誕生 自発する経済とコミュニティ」金子郁容松岡正剛下河辺淳実業之日本社
「知の編集術」松岡正剛(講談社現代新書)